日記・趣味
Diary & Hobby
ドラクエ/今村先生
大学4年の初夏のこと。素粒子論研究室の飲み会で、隣に座った今村先生が「最近ドラクエがしたくて、PS4を買ってしまった」と話していた。その一言を聞いて、私はドラクエというゲームに興味を持った。
今村先生
なぜかというと、今村先生は驚くほど優秀で、誰よりも熱心な研究者だからだ。毎日時間を惜しむように研究に打ち込んでいる。
研究室のみんなで登山に行ったときも、山頂で景色を楽しむどころか、見晴らし台のベンチに座ってずっと論文を読んでいたほどだ
(後日、院生たちに「せめて景色を見てくださいよ」とツッコまれていた)。
そんな先生が貴重な時間を使ってプレイするゲームとは一体どんなものなのか——純粋に気になった。
私はすぐに「買います!」と宣言した。すると先生は「いいけど、単位はあげないよ?」とお茶目に返してくれた。
ドラクエ
早速ドラクエ11をプレイしてみると、これが本当に面白かった。ストーリーは「世界を救う勇者の物語」という王道の展開だったが、次々と訪れる試練や、それを乗り越える仲間たちの絆の深さに、何度も胸が熱くなった。
そんなドラクエを通じて、私はふと考えた。私にとって、今村先生はすでに「勇者」なのではないか、と。なぜなら、自分が叶えられなかった「理論物理学の研究者になる」という夢を実現している人だからだ。
研究室のゼミで、誰も解けなかった教科書の演習問題を、先生が黒板でさらりと解いたことがあった。その解法は驚くほど明快で、シンプルで、美しかった。
ついさっきまで「まったく分からない」と思っていた問題なのに、先生の解説を聞いた瞬間、「考えてみれば当たり前だ。むしろ、なぜ今まで解けなかったんだろう」と感じてしまった。
「勇者」
先生は学生時代、京都大学にいたそうだ。あまりにも優秀すぎて、同期の仲間たちは皆、他の道へ進んでしまったらしい。
この話を駒場の研究室で聞いたときは、衝撃のあまり夜も眠れなかった。自分は到底そのレベルには至れないと、改めて思い知らされたからだ。
そんな先生だが、意外にも散歩が好きで、よく大学から品川まで歩いて行くこともあるという。さらに、ときどきお茶目な一面を見せることもあり、院生たちにちょっかいをかけられることもしばしばだった。
一度、駅のベンチで熱心に論文を読んでいたところ、院生に無駄絡みされていたことがあった。先生は本当に嫌そうな顔をしながらも、結局最後まで論文を手放さなかった。
ベンチに座る先生を見ながら、不思議な感覚に襲われた。すぐ近くにいるのに、どこか遠い存在のように感じる。
気さくな性格と圧倒的な実力、その二つを兼ね備えた人だからこそ、周囲の人を惹きつけるのだろう。勇者とは、案外こういう人のことを言うのかもしれない。