1−1 一様磁場中の荷電粒子
J.J.サクライ『現代の量子力学』には一様磁場中の荷電粒子による説明がない。これに関しては大学院入試でも問われる重要な知識なので、補足しておこう。サクライお得意のブラケット記法を用いると、これについても簡単に解ける。
$z\, $方向に一様な一定磁場$\, B\, $がかかっているときの荷電粒子の動きを、量子力学的に考えよう。考えるSchrodinger方程式は、以下である。
ここでHamiltonan$\, \hat H\, $は、以下で与えられる。
上で$\, z\, $方向のハミルトニアン$\, \frac{1}{2m}\hat p_z^2\, $は変数分離によりすぐに取り除けるので、省いた。それでは$\, |\alpha, t\rangle\, $を求めよう。まず、$\, \hat H\, $が時間に依存しないときの一般的な処方箋として、$\, |\alpha,t\rangle\, $を$\, \hat H\, $の固有ケットで展開するとよい。
ただしここで$\, |n\rangle\, $は$\, \hat H\, $の固有ケットであり、$\, E_n\, $はそのときの固有値である。$\, c_n\, $は定数で、初期状態$|\alpha, t=0\rangle\, $によって決まる。
(\ref{3})式は、時間発展演算子が対角行列であることを示している。つまり、$\, |n\rangle\, $は時間発展しても遷移することなく、一定の確率密度$\, |\langle n | \alpha,t\rangle|^2=|c_n|^2\, $を保ち続ける。状態が交わらないので、位相$\, \exp(-\frac{i}{\hbar}E_n t)\, $も観測されない。
もちろん、エネルギーが縮退している可能性は十分にある。つまり、$\, E_n = E_m\, $となる直交ベクトル$\, |n\rangle\, ,|m\rangle\, $がある可能性は十分にある。この点に注意してもれなく固有ケットを列挙するには、$\, \hat H\, $と可換な演算子の組$A\,, B\, \cdots$を見つけて、これらの演算子の固有値で固有ベクトル$\, |a,b,\cdots \rangle\, $を列挙するとよい。ただし今回はそこまで厳密な議論をする必要がないのでしない。
以上から、ケット$\, |\alpha , t\rangle\, $を明らかにするためには、固有方程式 \begin{gather} \hat H |n\rangle= E_n |n\rangle \label{4} \end{gather} を解いて、Hamiltonan$\, \hat H\, $の固有ケット$\, |n\rangle\, $を明らかにすればよい。より具体的には、波動関数$\, \langle x,y | n \rangle \, $を求めるのが目標である。
波動関数を解く
我々の目標は波動関数$\, \langle x,y | n \rangle \, $を求めることだが、今回の場合、直接これを狙いに行くのはあまり賢明な方法ではない。最もラクな方法は、固有方程式(\ref{4})に左から$\, \langle x, p_y |\, $をかけることである。言い換えると、$\, x\, $方向に関しては位置空間で、$y$方向に関しては運動量空間でこの問題を解いてしまうのである。
(\ref{4})に左から$\, \langle x, p_y |\, $をかけた結果は、以下のようになる。
ただしここで、 \begin{gather*} \langle x|\hat x = x \langle x|,\qquad \langle x|\hat p_x = -i\hbar \frac{\partial}{\partial x} \langle x| \end{gather*} を用いた。(\ref{5})式でさらに \begin{gather} \omega=\frac{eB}{mc},\qquad X=\frac{cp_y}{eB} \label{5.1} \end{gather} とおくと、(\ref{5})式は
最後に、逆Fourier変換 \begin{gather*} \langle x, y |n\rangle =\sqrt{2\pi\hbar} \int d p_y\, e^{\frac{i}{\hbar}p_yy}\langle x, p_y |n\rangle \end{gather*} により、波動関数は解ける。エネルギー固有値は、 \begin{gather} E_n = \hbar \omega_c\left(n+\frac{1}{2}\right) \label{8} \end{gather} であり、縮退はない。
さらにx方向に電場が生じているとき
考えるハミルトニアンは以下である。
先程と同様に、これを$\, x\, $方向に関して位置空間、$y$方向に関して運動量空間で表現すると、Hamiltonianは以下のようになる。
ただし一行目から二行目への変形では、(\ref{5.1})の$\, \omega, X\, $で置き換えたあとに平方完成した。Hamiltonianの結果を見ると、はじめの二項は前項と同じであり、あとの二項はただの定数である。これより、エネルギー固有値は単なるシフトを受ける。
このように、電場$\, E\, $の影響は波動関数の形を変えず、エネルギー固有値のみをシフトすることがわかった。
おまけ
今回のモデルでは$\, x,y\, $が無限に広い平面のときを考えた。ところが面白いことに、このモデルに対して$\, y\, $方向に周期的境界条件を課すと、エネルギー固有値は縮退を生じる。そして、摂動$\, E\, $の挿入によりこの縮退は解ける。
この現象はいわゆる整数量子ホール効果と関係が深いものだが、ここまで説明する余裕が本ページにはない。興味がある方は、たとえば『トポロジカル絶縁体・超伝導体』(野村健太郎著、丸善出版)等を参照するとよい。