やさしい理系物理

超弦理論入門

§1 相対論的な点粒子

ここでは、ポルチンスキー『ストリング理論』を参考にしており、表記もこれに合わせています。

1 重力場中の点粒子の作用

弦(ひも)について考える前に、$D$ 次元時空における相対論的な自由粒子(点粒子)の作用について考えよう。

点粒子の位置を $X^\mu (\tau)$ と書くことにする。ここで $\tau$ は世界線上に定めた適当なパラメータ座標である。

作用の構成

作用の形を決めるために、作用が持つべき対称性について考えてみよう。それは、以下の2つに関する不変性である。

  1. ポアンカレ変換: \begin{align} X^\mu (\tau) \quad\to\quad X'^\mu (\tau)=\Lambda^\mu_{\ \ \nu} X^\nu (\tau ) + a^\mu \end{align}
  2. パラメータ付け替え変換: \begin{align} X^\mu (\tau) \quad\to\quad X'^\mu (\tau')=X^\mu (\tau) \end{align}

このうちポアンカレ不変性は、物理法則のローレンツ対称性および並進対称性の要請に等しく、これを求めるのは自然なことであろう。また、パラメータ付け替え不変性を作用が満たしてほしい、というのも自然な要請である。というのも、 $\tau$ は我々が勝手に引いた世界線上の座標(パラメータ)であり、座標の引き方に物理法則が依存してはいけないからである。

さて、このような作用はどのように作れば良いだろうか。これについて考えるために、平坦時空におけるポアンカレ不変な量 \begin{align} ds^2 = - \eta_{\mu\nu}dX^\mu dX^\nu \end{align} を考えよう。ただし、$\eta_{\mu\nu}$ は平坦時空における計量 \begin{align} \eta = \begin{pmatrix} -1 & & & \\ & 1 & & \\ & & \ddots & \\ & & & 1 \end{pmatrix} \end{align} である。これを用いて、作用を以下のように構成する。

\begin{align} S_{pp}&=-m\int ds\\ &=-m\int \sqrt{- \eta_{\mu\nu}\dot X^\mu \dot X^\nu}d\tau \end{align} ただし、$\dot X^\mu=\dfrac{dX^\mu}{d\tau}$である。さいごに、平坦時空から一般の時空に戻して($\eta_{\mu\nu} \to g_{\mu\nu}$)、我々が得たい作用を得る。

\begin{align} S_{pp}&=-m\int \sqrt{- g_{\mu\nu}(X)dX^\mu d X^\nu} \end{align}

ポアンカレ不変性は、添字の縮約、および作用が $dX$ のみを通して $X$ に依存していることから明らかである。また、パラメータ付け替え不変性についても、上の式が $\tau$ にあらわに依存していないことから明らかである。$m$ は定数であるが、のちにこれが質量を意味することが明らかになるだろう。

非相対論的極限

作用 $S_{pp}$ の非相対論的極限が、我々がよく知っているニュートン力学に帰着することを確認しよう。非相対論的極限は、条件 \begin{align} g_{\mu\nu}(X)=\eta_{\mu\nu}\ ,\quad \left|\frac{dX^i}{dX^0}\right|^2\ll 1 \end{align} により表せる。幸い、我々はいまパラメータ付け替え不変性を持っているので、作用 \begin{align} S_{pp}&=-m\int \sqrt{- \eta_{\mu\nu}\dot X^\mu \dot X^\nu}d\tau \end{align} において、$\tau = X^0$ と選ぶことができる。

以上に基づいて計算すると、 \begin{align} S_{pp}&=-m\int \sqrt{1-|\boldsymbol v|^2}dt\\ &\simeq -m\int \left(1-\frac{1}{2}|\boldsymbol v|^2\right)dt \end{align} となり、作用の中身が $-m+\dfrac{1}{2}m|\boldsymbol v|^2$ となる。これはまさに、我々がニュートン力学でよく知っているラグランジアンに等しい。

運動方程式の解

運動方程式を求めよう。$X^\mu$ について変分を取ると、$\partial_\alpha=\dfrac{\partial}{\partial X^\alpha}$として \begin{align} \delta S=-m\int \frac{\delta(- g_{\mu\nu}(X)\dot X^\mu \dot X^\nu)}{2\sqrt{- g_{\mu\nu}(X)\dot X^\mu \dot X^\nu}}d\tau \end{align} となる。$g_{\mu\nu}(X)$が $X$ によることに注意して計算を進めると、以下の式が得られる。 \begin{align} \ddot X^\alpha + \Gamma^\alpha_{\mu\nu}(X)\dot X^\mu\dot X^\nu=\dot X^\alpha \partial_\tau\left(\ln\sqrt{- g_{\mu\nu}(X)\dot X^\mu \dot X^\nu}\right) \end{align} ただし、途中の計算では、接続係数 $\Gamma^\alpha_{\mu\nu}=\Gamma^\alpha_{\mu\nu}(X)$ が計量を用いて次のように記されることを用いた。 \begin{align} \Gamma^\alpha_{\mu\nu}=\frac{1}{2}g^{\alpha \beta}(\partial_{\beta}g_{\mu \nu}-\partial_{\mu}g_{\nu \beta}-\partial_{\nu}g_{\mu \beta}) \end{align} さいごに、$\tau$ を固有時間に取ると、上の式の右辺は消滅する。これにより、我々が一般相対論で知っている測地線方程式が得られる。

2 補助場を用いた点粒子の作用

もう一つの表現

これまで述べてきた作用 $S_{pp}$ は幾何学的な意味が明快でよいが、ルートが入っているので数学的に扱いづらく、また質量 $0$ の(massless)粒子には適用できないという問題点がある。

そこで、以下のように作用を書き換えることを考えよう。

\begin{align} S'_{pp}=\frac{1}{2}\int (e^{-1}g_{\mu\nu}\dot X^\mu \dot X^\nu-em^2)d\tau \end{align}

ここで $e=e(\tau)$ は補助場である。上の式で $e$ に関して変分を取って得られる運動方程式 \begin{align} m^2e^2+g_{\mu\nu}\dot X^\mu \dot X^\nu=0 \end{align} を作用に代入すると、もとの作用 $S_{pp}$ が得られる。

対称性が保持されていることの確認

この作用は、もとの2つの対称性を持っているのだろうか。これについて考えるためには、対称性のもとで補助場 $e$ がどのような変換則を満たすのかうまく定めてあげて、2つの対称性を保持することを考えれば良い。

これについては、無限小変換を考えて愚直に計算するのもよいのだが、ここでは天下り的だがもっとスマートな方法を考えよう。実のところ、補助場 $e$ は世界線上の計量 $\gamma_{\tau\tau}(\tau)$ に対して、$e=\sqrt{-\gamma}$ という幾何学的な意味を持っている。一般相対論において $\sqrt{-g}\, d^4x$ が座標変換に対して不変な量であったことを思い出そう。これより、$e\, d\tau$ はパラメータ付け替え変換のもとで \begin{align} e(\tau)d\tau \to e'(\tau')d\tau'=e(\tau)d\tau \end{align} と変換する。また、$e$ は $\tau$ にしかよらないので、ポアンカレ不変であることは明らかであろう。

以上より、補助場を含めた変換則は次のようにまとめられる。

  1. ポアンカレ変換: \begin{align} X^\mu (\tau) &\quad\to\quad X'^\mu (\tau)=\Lambda^\mu_{\ \ \nu} X^\nu (\tau ) + a^\mu\\ e(\tau) &\quad\to\quad e'(\tau)=e(\tau) \end{align}
  2. パラメータ付け替え変換: \begin{align} X^\mu (\tau) &\quad\to\quad X'^\mu (\tau')=X^\mu (\tau)\\ e(\tau)d\tau &\quad\to\quad e'(\tau')d\tau'=e(\tau)d\tau \end{align}

上の2つの変換のもとで、作用 $S'_{pp}$ が不変なのは明らかであろう。

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