統計学の基礎をすぐに思い出せるような、まとめチートシートを作成しました。
「確率分布編」「推定・検定編」「線形回帰編」「その他の話題(理工学分野)」の4部構成です。本ページは「推定・検定編」です。
注意
あくまで個人用のメモであり、誤植や不正確な情報が含まれている可能性があります。適宜更新していきます。
6 統計的推定
十分統計量
標本を $\boldsymbol X=(X_1,\ldots,X_n)$ とする。統計量 $T(\boldsymbol X)$ が母数 $\theta$ に関して十分統計量であるとは、$T(\boldsymbol X)=t$ を条件として与えたときの標本 $\boldsymbol X$ の条件付き分布が $\theta$ に依存しないことである。つまり、$T(\boldsymbol X)=t$ を満たす任意の $\boldsymbol{x}, t$ について、
が母数 $\theta$ に依存しない、ということである。
この定義の意味は、標本全体 $\boldsymbol X$ を見なくても、$T(\boldsymbol X)$ さえ見れば、$\theta$ に関する情報はすでに拾い切れているということである。もう少し具体的に言えば、$T(\boldsymbol X)=t$ で標本を固定した後、同じ $t$ を与える標本の細かい違い、すなわち $\{\boldsymbol{x} \mid T(\boldsymbol{x})=t\}$ の中でどの $\boldsymbol{x}$ が実現したかは、$\theta$ によって偏らない。したがって、その残りの違いを見ても、$\theta$ の推定を更新する情報にはならない。
実用上は、次の因子分解定理で判定することが多い。標本 $\boldsymbol{x}=(x_1,\ldots,x_n)$ の同時確率密度関数または同時確率関数が、
の形に分解できるなら、$T(\boldsymbol X)$ は $\theta$ に関する十分統計量である。ここで $a(T(\boldsymbol{x}), \theta)$ は $\boldsymbol{x}$ への依存を $T(\boldsymbol{x})$ を通じてしか持たず、$b(\boldsymbol{x})$ は $\theta$ に依存しない関数である。
したがって、十分統計量は標本全体を、母数推定に必要な情報を落とさずに圧縮したものと見なせる。たとえば正規分布で分散が既知なら、母平均 $\mu$ に関する十分統計量は標本和 $\sum_i X_i$ であり、標本の並び方や個別値の細部は、$\mu$ に関しては本質的な追加情報を持たない。
十分統計量の例
十分統計量の最も簡単な例として、ベルヌーイ分布と二項分布の関係を見ておこう。$X_1,\ldots,X_n \overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim}\mathrm{Ber}(p)$ とすると、十分統計量 $T(\boldsymbol X)=\sum_{i=1}^n X_i$ は二項分布に従う。
\begin{align} T(\boldsymbol X) \sim \mathrm{Bin}(n,p) \end{align}これは、二項分布が「独立なベルヌーイ試行の成功回数 $T(\boldsymbol X)$ の分布」であることに対応する。この「成功回数」という統計量が、実際に$p$ に関する十分統計量になっていることを因子分解定理で確認しよう。標本 $\boldsymbol{x}=(x_1,\ldots,x_n)$ の同時確率関数は、
と書ける。標本 $\boldsymbol{x}$ が $p$ に関係するのは、個々の並び方ではなく成功回数 $T(\boldsymbol{x})$ を通じてだけである。したがって、因子分解定理より $T(\boldsymbol X)=\sum_i X_i$ は $p$ に関する十分統計量である。
もちろんこれは、因子分解定理を使わずに、直接確認することもできる。$T(\boldsymbol X)=t$ と固定し、$\sum_i x_i=t$ を満たす標本 $\boldsymbol{x}$ を一つ取る。このとき、
\begin{align} P_p(\boldsymbol X=\boldsymbol{x}\mid T(\boldsymbol X)=t) &= \frac{P_p(\boldsymbol X=\boldsymbol{x})}{P_p(T(\boldsymbol X)=t)} \\ &= \frac{p^t(1-p)^{n-t}}{\binom{n}{t}p^t(1-p)^{n-t}} = \frac{1}{\binom{n}{t}} \end{align}となり、右辺は $p$ に依存しない。つまり、成功回数 $t$ が分かった後では、その $t$ 個の成功がどの位置に並んだかは $p$ に関する追加情報を持たない。
指数型分布族
指数型分布族とは、確率密度関数または確率関数が次の形で書ける分布族である。
ここで $\boldsymbol{\eta}(\theta)$ は自然母数、$\boldsymbol{T}(x)$ は十分統計量に対応する量、$A(\theta)$ は正規化のための項である。$A(\theta)$ は単なる飾りではなく、密度を積分して $1$ にするために必要な項であり、モーメントやFisher 情報量とも深く関係する。
正規分布、Poisson 分布、二項分布、ガンマ分布など、多くの基本的な分布は指数型分布族に入る。指数型分布族が重要なのは、十分統計量、最尤推定、共役事前分布などがきれいな形で現れ、推定・検定の計算がかなり整理されるからである。
最尤法
最尤法とは、観測されたデータが最も出やすくなるように母数 $\theta$ を選ぶ方法である。より詳しく言えば、得られたデータ $\mathcal{D}=(x_1,\ldots,x_n)$ を固定した上で、$\theta$ の関数として尤度を見て、その値を最大化する $\theta$ を推定値として採用する。
たとえば $X_1,\ldots,X_n \overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim} f_\theta$ から得られた標本が $\mathcal{D}=(x_1,\ldots,x_n)$ であるとする。このとき、尤度関数は次で定義される。
ここで注意すべきなのは、$f_\theta(x_i)$ を「$x_i$ の関数」としてではなく、観測値 $x_i$ を固定した後の「$\theta$ の関数」として見ている点である。確率密度関数としての $f_\theta(x)$ は $x$ を動かして積分すれば $1$ になるが、尤度 $L(\theta|\mathcal{D})$ は $\theta$ について積分して $1$ になる必要はない。
最尤推定量 $\hat{\theta}_{\mathrm{MLE}}$ は、
として定義される。実際の計算では積を扱うより和を扱うほうが楽なので、対数尤度
を最大化することが多い。対数は単調増加関数なので、$L(\theta|\mathcal{D})$ を最大化することと $\ell(\theta|\mathcal{D})$ を最大化することは同値である。
最尤推定量は有限標本で不偏とは限らない。しかし、正則条件のもとでは一致性や漸近正規性を持ち、さらに漸近的には効率のよい推定量になることが多い。このため、最尤法は「尤度を最大化する」という単純な原理でありながら、漸近理論と非常に相性がよい。
Bayes 法
これまで我々は確率を「ランダムな繰り返し試行によって、$X$ が取りうる値の頻度」と考えてきた。そこでは、確率モデルにおいて母数 $\theta$ はあらかじめ決まっていて、これによって $X$ の分布が決まるという形であった。
一方でBayes的な考え方では、モデルパラメータ $\theta$ は決まっていない。むしろパラメータ $\theta$ 自身にも不確実性があって、この不確実性をも確率分布できちんと表現しようと考えるのである。このような場合、$X$ だけでなく $\theta$ も確率変数とみなされることになる。
いま、観測データの集合 $\mathcal{D}=\boldsymbol x $ が与えられているとする。ただし、「観測データ」であることを明記するため、以下では実現値 $\boldsymbol x$ の代わりに $\mathcal{D}$ と書くことにする。また、データ $\mathcal{D}$ のもとで推定される $\theta$ の分布を $\pi(\theta|\mathcal{D}) $ と書くことにする。
$\pi(\theta|\mathcal{D}) $ の分布はこれだけではよく分からないが、Bayesの定理
を用いると見通しが良くなる。ここで $\pi(\mathcal{D}|\theta)$ は「パラメータ $\theta$ のとき観測データ $\mathcal{D}$ が得られる確率密度または確率」であり、これを $\theta$ の関数と見たものが尤度に他ならない。
一方、$\pi(\theta)$ は観測データ $\mathcal{D}$ が得られる前に考える $\theta$ の分布であり、事前分布と呼ばれる。これに対応して、データ $\mathcal{D}$ が得られた後の分布 $\pi(\theta|\mathcal{D}) $ は、事後分布と呼ばれる。$\pi(\mathcal{D})$ はかなり抽象的な定数だが、いったんは分子の規格化定数と考えておけばよく、今回の主役ではない。
Bayes 法では、事後分布 $\pi(\theta|\mathcal{D})$ を用いて $\theta$ を推定する。特に事後分布を求めるために計算上覚えておくべきは
という式で、これさえ押さえておけば定数分は規格化条件によって自動的に決まる。
Bayes 的な見方からすると、最尤推定は $\pi(\theta|\mathcal{D})$ と $\pi(\mathcal{D}|\theta)$ を同一視するような「粗い」推定とみなすこともできるだろう。一方で Bayes 推定では、事前分布 $\pi(\theta)$ をどのように決めるのかという新たな問題が生じる。多くの場合、これは尤度関数を見て数学的に便宜な関数が選ばれることが多く、これは共役事前分布と呼ばれる。多くの場合、共役事前分布にはきちんと現実的な意味づけが与えられることも多く、その点は興味深い。
不偏性
不偏性とは、推定量の期待値が真の母数に一致することである。標本を $\boldsymbol X=(X_1,\ldots,X_n)$ とし、推定量を $\hat{\theta}(\boldsymbol X)$ と書く。任意の $\theta\in\Theta$ に対して
が成り立つとき、$\hat{\theta}(\boldsymbol X)$ は不偏推定量であるという。ここで $E_\theta$ は、母数が $\theta$ である分布のもとで期待値を取ることを表す。
より一般に、推定量のバイアスは以下で定義される。
したがって、不偏性とは $\mathrm{Bias}_\theta(\hat{\theta})=0$ が任意の $\theta$ で成り立つことだと言える。不偏性は、同じ標本抽出を何度も繰り返したとき、推定量の平均が真の値に一致するという性質である。ただし、不偏だからといって一回一回の推定値が真の値に近いとは限らない。大きな分散を持つ不偏推定量は、平均的には正しくても、実際の推定ではかなり不安定になりうる。
推定量の良さを見るときは、不偏性だけでなく、分散なども見る必要がある。平均二乗誤差(MSE)は、推定量と真の値の二乗誤差の期待値として定義される。$\hat{\theta} = \hat{\theta}(\boldsymbol X)$ とおくと、
これの $2$ 行目を展開すると、交差項は $0$ になるので、以下の式を得る。
したがって、わずかにバイアスがあっても分散が大きく下がるなら、MSE の意味ではそちらの推定量のほうが優れていることもある。
Fisher 情報量
Fisher 情報量は、データが母数 $\theta$ についてどれくらい鋭い情報を持っているかを表す量である。確率密度関数または確率関数 $f_\theta(x)$ に対して、スコア関数を
とおくと、1標本あたりのFisher 情報量は
で定義される。正則条件のもとでは、以下の形でも書ける。
スコア関数は、$\theta$ を少し動かしたときに対数尤度がどれくらい変化するかを表している。したがってFisher 情報量が大きいとは、分布が $\theta$ の変化に敏感であり、データから $\theta$ を識別しやすいことを意味する。
$X_1,\ldots,X_n \overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim} f_\theta$ の場合、情報量は加法的に増える。すなわち、$n$ 標本全体のFisher 情報量は
である。この性質が、推定量の分散が $1/n$ のオーダーで小さくなることと対応している。
また、正則条件のもとで、任意の不偏推定量 $\hat{\theta} = \hat{\theta}(\boldsymbol X)$ について次のCramér-Rao 不等式が成り立つ。
つまり、不偏推定量の分散はFisher 情報量の逆数より小さくできない。Fisher 情報量が「推定のしやすさ」を表すと言われるのは、この下限と直接結びついているからである。
一致性、漸近有効性
推定量 $\hat{\theta}_n(\boldsymbol X)$ が真の母数 $\theta$ に一致性を持つとは、
が成り立つことである。これは、標本数を増やすと推定量が真の値の近くに確率的に集中することを意味する。有限標本で多少ずれていても、$n\to\infty$ で真の母数を回収できるなら、その推定量は一致的である。
なお、一致性と不偏性は全く別の概念であることに注意しよう。例えば最尤推定量の分散 $S^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^n (X_i - \overline{X})^2$ は不偏性を持たないが、一致性を持つ。逆に不偏性を持たないが一致性を持つ推定量も作れる。例えば $X_1, \ldots, X_n \sim \mathcal{N}(\theta, 1)$ のとき、 $\hat \theta (\boldsymbol X) = X_1$ は不偏推定量であるが、一致性を持たない。
さらに、推定量が次のような漸近正規性を持つとする。
このとき、推定量 $\hat{\theta}_n(\boldsymbol X)$ は漸近有効性を持つという。漸近有効性とは、標本数が大きくなると、推定量の分布がFisher 情報量に基づく正規分布に収束することを意味する。つまり、$n$ が十分大きいとき
\begin{align} \hat{\theta}_n(\boldsymbol X) \approx \mathcal{N}\left(\theta, \frac{1}{nI_1(\theta)}\right) \end{align}ということである。漸近有効な推定量は、標本数が十分大きい場合に最も効率的な推定を行うことができる。
適切な正則条件のもとで、最尤推定量は漸近有効性を持つ。これはとくに漸近正規性と呼ばれる。
7 統計的仮説検定
考え方
統計的仮説検定では、まず帰無仮説 $H_0$ と対立仮説 $H_1$ を置く。基本的には、帰無仮説 $H_0$ のもとで観測されたデータがどれくらい起こりにくいかを調べ、その起こりにくさが十分に大きければ $H_0$ を棄却する。
ただし、「データがどれくらい極端か」を見るためには、先に検定統計量を決めるのが普通である。検定統計量とは、標本 $\boldsymbol X=(X_1,\ldots,X_n)$ を一つの量に要約し、帰無仮説からのズレを測るための統計量である。
検定統計量の決め方は一意ではない。平均の差を見たいなら標本平均を標準化した統計量を使い、分散の比を見たいなら $F$ 統計量を使う、というように、仮説に対してどの方向のズレを検出したいかによって自然な選び方が変わる。なお、検定統計量の決め方については $3$ つの有用な手法がよく知られており、のちに説明する。
検定統計量を決めたら、次に $H_0$ のもとでの $T$ の分布を調べる。これを帰無分布という。この帰無分布をもとに、$H_0$ に反すると判断して棄却する $T$ の値の領域を $C$ とする。このとき、標本空間上の棄却域 $R$ は、$T(\boldsymbol X)$ が $C$ に入る標本を集めたものとして
と定義される。つまり、まず $T$ の値のどの範囲を棄却するかを定め、その範囲に入る標本を棄却するのである。$H_0$ のもとでは起こりにくく、$H_1$ のもとでは比較的起こりやすい値を $C$ に入れるのが基本的な考え方である。
ここで、帰無仮説が許す母数の集合を $\Theta_0$ と書く。棄却域を定める際には、$H_0$ が正しいにもかかわらず誤って $H_0$ を棄却する第一種の過誤を、どの程度まで許すかをあらかじめ数値 $\alpha$ で決めておく。この $\alpha$ を有意水準という。したがって、棄却域 $R$ は通常、
を満たすように定める。この上限は、$H_0$ のもとで生じうる第一種の過誤確率の最大値を表している。
観測データを $\boldsymbol{x}_{\mathrm{obs}}$ とすれば、実際に観測された検定統計量は
である。この $t_{\mathrm{obs}}$ が $C$ に入るかどうかを調べ、$H_0$ を棄却するかどうかを判断する。
たとえば、$T$ が大きいほど $H_0$ に反する検定を考える。このとき、有意水準 $\alpha$ の検定では、帰無仮説の範囲 $\Theta_0$ にある任意の $\theta$ に対して、
となるように臨界値 $c_\alpha$ を選ぶ。そして $t_{\mathrm{obs}}\geq c_\alpha$ なら $H_0$ を棄却し、そうでなければ棄却しない。この場合は $C=[c_\alpha,\infty)$ であり、$T$ の大きい側を棄却域にしている。このように、一般の条件 $\sup_{\theta\in\Theta_0}P_\theta(\boldsymbol X\in R)\leq\alpha$ を、上側検定では $T$ の上側確率によって具体化する。この意味で、検定は「検定統計量を決める」「その帰無分布を求める」「有意水準に対応する棄却域を作る」という順番で組み立てられる。
したがって、標本空間上の棄却域は具体的に
である。観測データ $\boldsymbol{x}_{\mathrm{obs}}$ が $R$ に入れば $H_0$ を棄却し、入らなければ棄却しない。
試験でよく扱う検定では、検定統計量を対立仮説からのズレの大きさや方向を表すように設計することが多い。そのため、$H_0$ のもとで極端な値を取る領域が、$T$ の上端、下端、または両端として表されることが多い。これが「端を棄却する」検定が多い理由である。ただし、棄却域が端になることは検定の一般原理ではなく、検定統計量の選び方や確率モデルによる。
t 検定(1標本)
$t$ 検定は、正規母集団の平均について検定したいが、母分散が未知であるときによく使う。たとえば、$X_1,\ldots,X_n \overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim}\mathcal{N}(\mu,\sigma^2)$ に対して、$H_0:\mu=\mu_0$ を検定する場合を考える。
このときまず、帰無仮説のもとで平均と分散は
である。よって、上の式から $\overline X$ を標準化したあと、未知の $\sigma$ を $\hat{\sigma}$ で置き換えたものを検定統計量 $T$ とすることで
が成り立つ。母分散 $\sigma^2$ が分かっていれば標準正規分布で標準化できるが、未知の $\sigma^2$ を $\hat{\sigma}^2$ で置き換えるため、分母にも確率的な揺らぎが入る。その結果、標準正規分布ではなく自由度 $n-1$ の $t$ 分布が現れる。
t 検定(2標本)
2つの正規母集団の平均を比較する場合にも、母分散が未知で共通と仮定できるなら $t$ 検定を用いる。独立な標本
\begin{align} X_1,\cdots,X_m &\overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim}\mathcal{N}(\mu_1,\sigma^2)\\ Y_1,\cdots,Y_n &\overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim}\mathcal{N}(\mu_2,\sigma^2) \end{align}について、帰無仮説 $H_0:\mu_1=\mu_2$ を考える。この共通平均を $\mu$ と書く。共通分散の推定量として
を用いる。分布の形状は、$\chi^2_{m-1}+\chi^2_{n-1}=\chi^2_{m+n-2}$ から明らかだろう。
一方、帰無仮説のもとでは、$\overline X\sim \mathcal{N} (\mu,\sigma^2/m), \overline Y\sim \mathcal{N} (\mu,\sigma^2/n)$ より
\begin{align} \overline X-\overline Y \sim \mathcal{N}\left( 0, \sigma^2\left(\frac{1}{m}+\frac{1}{n}\right) \right) \end{align}である。したがって、上の式から $\overline X-\overline Y$ を標準化して、未知の $\sigma$ を $\hat{\sigma}$ で置き換えたものを検定統計量 $T$ とすることで
が成り立つ。これは、2つの母分散が等しいという仮定のもとで、分散情報をまとめて使う検定である。
F検定
$F$ 検定は、分散の比や、分散分析における平方和の比を調べるときに使う。基本にあるのは、独立なカイ二乗分布の比が $F$ 分布に従うという事実である。
たとえば、独立な標本 $X_1,\cdots,X_m \overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim}\mathcal{N}(\mu_1,\sigma_1^2)$、$Y_1,\cdots,Y_n \overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim}\mathcal{N}(\mu_2,\sigma_2^2)$ について、2つの正規母集団の分散が等しいかどうかを調べる場合を考える。それぞれの標本分散を $\hat{\sigma}_1^2,\hat{\sigma}_2^2$ とすると、
である。したがって、帰無仮説 $H_0:\sigma_1^2=\sigma_2^2$ のもとで
を用いる。
$F$ 検定は正規性の仮定に比較的敏感である。したがって、分散の等質性だけを機械的に確認する道具というより、正規モデルのもとで分散比を検定する方法として理解したほうがよい。
尤度比検定
尤度比検定は、帰無仮説のもとで許されるパラメータ空間 $\Theta_0$ における最良の当てはまりと、制約を外した全体のパラメータ空間 $\Theta$ における最良の当てはまりを比べる検定である。検定統計量は下記で与えられる。
$\lambda = \lambda(\boldsymbol X)$ は $[0,1]$ の範囲を動き、これは直感的には帰無仮説 $\Theta_0$ を課すことで、どれだけモデルの説明力が落ちるかを比(無次元量)で表したものである。$\lambda$ が小さいほど、帰無仮説の制約を入れると「説明力」が大きく悪化するため、$H_0$ を棄却する方向に働く。一方、$\lambda$ が $1$ に近ければ、帰無仮説の制約を課しても、制約なしの場合と比べて当てはまりが悪化していないことを示す。
正則条件のもとでは、Wilks の定理により、制約の数を $r$ として次の近似が成り立つ。
したがって、大標本では $-2\log\lambda$ をカイ二乗分布の上側確率で評価すればよい。多くの一般化線形モデルやネストしたモデル比較で、この形がそのまま使われる。
尤度比 $\lambda$ は $1$ より小さい値ほど帰無仮説から遠かったので、 $-2\log\lambda$ は値が大きいほど帰無仮説から遠いことになる。ゆえに、棄却域は
と取ればよい。
尤度比検定の例
$X_1,\ldots,X_n \overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim}\mathcal{N}(\mu,\sigma^2)$ とし、$\mu, \sigma^2$ は未知とする。ここで、 \begin{align} H_0:\mu \leq \mu_0 \quad \mathrm{v.s.} \quad H_1:\mu_0 < \mu \end{align} を尤度比検定したい。
まず、母数空間全体でのMLEは \begin{align} \hat \mu = \overline X, \quad \hat \sigma^2 = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n (X_i-\overline X)^2 \end{align} である。一方で、$H_0:\mu \leq \mu_0$ のもとで、MLEは \begin{align} \hat \mu_0 = \min(\overline X, \mu_0), \quad \hat \sigma_0^2 = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n (X_i-\hat \mu_0)^2 \end{align} である。これより、尤度比は次のようになる。
$\overline X \leq \mu_0$ の場合は $\lambda=1$ であり、棄却する理由はない。一方、$\overline X>\mu_0$ の場合について進めよう。分母の $\hat \sigma_0^2$ を \begin{align} \hat \sigma_0^2=\hat \sigma^2 + (\overline X-\mu_0)^2 \end{align} を用いてバラし、不偏標本分散を $S^2=\dfrac{1}{n-1}\sum_i(X_i-\overline X)^2$ とし、
\begin{align} T = \frac{\overline X-\mu_0}{S/\sqrt n} \end{align}を使うと、$\overline X>\mu_0$ のとき $\rm (\ref{yudo_rei})$ 式は
と書ける。上の $\lambda(\boldsymbol X)$ が小さいほど帰無仮説から遠ざかるので、$T^2$ が大きいときに帰無仮説から遠ざかる。(なお、$T \sim t_{n-1}$ となるのは、真の母数が $\mu =\mu_0$ のときのみであることに注意しよう。)ただし今回は片側 $t$ 検定なので、$T$ が大きいときのみ棄却すれば十分である。このような棄却域は
で書ける。実際に、(次節で詳しく述べる)検出力を $\beta(\mu)=P_\mu(\boldsymbol X \in R)$ で定義すると、$\mu\leq\mu_0$ に対して
\begin{align} \beta (\mu) \leq \alpha \end{align}であり、等号成立は $\mu = \mu_0$ のときであることがすぐに示せる。
検出力関数
検定では、帰無仮説を棄却するかどうかを決めるので、判断を誤る可能性がある。この誤りには次の2種類がある。
- 第一種の過誤:本当は $H_0$ が正しいのに棄却してしまうこと
- 第二種の過誤:本当は $H_1$ が正しいのに $H_0$ を棄却できないこと
検出力関数とは、母数が $\theta$ のときに、検定が帰無仮説を棄却する確率である。棄却域を $R$ とすると、検出力関数は
と書ける。与えられた $\theta\in\Theta_0$ に対して、$\beta(\theta)$ は第一種の過誤確率に対応する。一方、$\theta\in\Theta_1$ のとき、第二種の過誤確率は $1-\beta(\theta)$ に対応する。特に単純仮説 $H_0:\theta=\theta_0$ と $H_1:\theta=\theta_1$ の比較では、第一種の過誤確率は $\beta(\theta_0)$ であり、第二種の過誤確率は $1-\beta(\theta_1)$ である。
第一種の過誤確率の最大値 $\sup_{\theta \in \Theta_0} \beta(\theta)$ をサイズと言う。統計学では伝統的に「よい検定」を、サイズを $\alpha$ 以下に抑えた上で、第二種の過誤確率 $1-\beta(\theta)$ をできるだけ小さくする検定と考える。 $1-\beta(\theta)$ が小さいことと、$\beta(\theta)$ が大きいことは同値であることに注意しよう。このような $\beta(\theta)$ を検出力と呼ぶ。
以上のことから、サイズが $\sup_{\theta \in \Theta_0} \beta(\theta) \leq \alpha$ である検定全体の中で、任意の $\theta\in\Theta_1$ に対してつねに検出力 $\beta(\theta)$ が最大になる検定があれば、それは「もっとも良い」検定ということになる。このような検定を一様最強力検定と呼ぶ。ただし、そのような検定が常に存在するわけではない。
確率化検定
ここまでの検定では、標本 $\boldsymbol X$ が棄却域 $R$ に入れば $H_0$ を棄却し、入らなければ棄却しないと考えてきた。このような検定は、標本空間の各点 $\boldsymbol x$ に対して「棄却する/しない」を $0,1$ で決める検定である。
しかし、とくに離散分布を扱うときには、有意水準 $\alpha$ とサイズをちょうど一致させられないことがある。たとえば、棄却域を $1$ つ広げるとサイズが $\alpha$ を超えてしまい、 $1$ つ狭めるとサイズが $\alpha$ より小さくなってしまう、という状況が起こる。これは確率が点ごとにまとまって乗っているためである。
このような場合に、境界上の標本についてだけ「一定の確率で棄却する」ことを許すと、サイズをちょうど $\alpha$ に調整できる。これを確率化検定という。
確率化検定は、棄却域そのものではなく、次のような検定関数で表す。
一般には $0\leq\phi(\boldsymbol x)\leq 1$ とし、$\phi(\boldsymbol x)$ を「観測値 $\boldsymbol x$ が出たときに $H_0$ を棄却する確率」と解釈する。通常の検定は、$\phi$ が $0$ または $1$ の値しか取らない特別な場合である。
このとき、母数が $\theta$ のときの棄却確率、すなわち検出力関数は
で定義される。したがって、確率化検定のサイズは以下で書ける。
離散分布では、通常の棄却域だけではサイズを $\alpha$ にぴったり合わせられないことがあるが、検定関数を使って境界上で確率化すれば、サイズを $\alpha$ に調整できる。確率化によってサイズを $\alpha$ ぴったりに合わせると、その分だけ検出力を高め、より強力な検定にできることが期待できる。
Neyman-Pearson の補題
単純仮説同士($H_0:\theta=\theta_0\ \mathrm{v.s.}\ H_1:\theta=\theta_1$)の比較では、Neyman-Pearson の補題により、尤度比
が大きいときに $H_0$ を棄却する検定が、有意水準 $\alpha$ の最強力検定である。つまり、観測データが「$H_0$ のもとで出やすい」よりも「$H_1$ のもとで出やすい」と強く言えるほど、$H_0$ を棄却する。
P値
ある人が「この辺では、はぐれメタルが $50\%$ の確率で出る」と考えたとする。しかし、実際にその場所で100匹捕まえてみたら、3匹しかはぐれメタルが出なかった。実際の出現確率は $3\%$ だったのだから、帰無仮説が本当に正しいならば、これはかなり珍しい現象だったということになる。このレア度をきちんと定量化したのが $P$ 値である。
$P$ 値は、ざっくり言えば、帰無仮説 $H_0$ を正しいと仮定したときの、観測結果のレア度である。
例えば、$P$ 値が $0.02$ であれば、帰無仮説のもとで同じように実験したときに、今回観測された結果以上に極端な結果が出る確率が $2\%$ であることを意味する。もちろんこれは、棄却域が $\alpha = 0.05$ であれば棄却されるような結果である(しかし、$P$ 値を測定してから棄却域を定めるような実験方法は倫理上推奨できるものではない)。
$P$ 値は、観測データそのものを丸ごと評価するのではなく、あらかじめ決めた検定統計量 $T=T(\boldsymbol X)$ を通じて評価する。
観測データを $\boldsymbol{x}_{\mathrm{obs}}$、観測された検定統計量を
とする。たとえば $T$ が大きいほど $H_0$ に反する検定なら、$P$ 値は
で定義される。これは、$H_0$ のもとで同じ実験をしたときに、今回観測された $t_{\mathrm{obs}}$ 以上に $H_0$ に反する値が出る確率である。したがって、$p$ が小さいほど、今回の観測値は帰無分布の端にあり、$H_0$ のもとでは珍しいデータだったと解釈される。
両側検定の場合は、「大きいほど反する」という片側の順序ではなく、帰無仮説からのズレの大きさを両側で見る。たとえば $T$ が $0$ を中心に対称な帰無分布を持ち、$|T|$ が大きいほど $H_0$ に反するなら、典型的には
と書ける。より一般には、どの方向を「より極端」とみなすかは、検定統計量と対立仮説の取り方によって決まる。
有意水準 $\alpha$ に対して $p\leq\alpha$ なら、観測された検定統計量は有意水準 $\alpha$ の棄却域に入っているので、$H_0$ を棄却する。つまり、$P$ 値による判定と棄却域による判定は同じ内容を、臨界値ではなく確率の尺度で言い換えている。
スコア検定(補足)
スコア検定とは、一言で言えば、検定統計量としてスコア関数を用いる検定のことである。スコア関数は、対数尤度の偏微分として定義されるのだった。
\begin{align} S_n(\theta | \boldsymbol X) = \frac{\partial}{\partial\theta} \log L(\theta | \boldsymbol X) = \sum_{i=1}^n S_1(\theta | X_i) \end{align}定義より、$1$ 個のデータに関するスコア関数の平均と分散が
\begin{align} E\big[S_1(\theta | X)\big] &= 0 , \quad \mathrm{Var}\big(S_1(\theta | X)\big) = I_1(\theta) \end{align}と書けることがすぐにわかる。これより、中心極限定理により
\begin{align} \frac{\sqrt{n} \big( \frac{1}{n}\sum_i S_1(\theta | X_i)-0\big)}{\sqrt{I_1(\theta)}} \to_d \mathcal{N}(0, 1) \end{align}つまり
が成り立つ。この漸近分布を利用して棄却域を設定するのがスコア検定である。
スコア検定は、最尤推定量を計算する必要がなく、比較的簡単な計算で検定を行うことができる。
カイ二乗適合度検定(補足)
ある草むらでは $K$ 種類のドラゴン $k=1,\cdots ,K$ が出現すると言われている。それぞれのドラゴンが出る確率 $p_1,\cdots,p_K$ は、帰無仮説にて
\begin{align} H_0: p_1=\pi_1,\ \cdots,\ p_K=\pi_K \end{align}であると考えられている。ただし、$\pi_k>0$ かつ $\sum_{k=1}^K\pi_k=1$ とする。今、$n$ 匹のドラゴンを捕まえたときの、各ドラゴンの出現回数が $X_1, \cdots, X_K$ であったとき、帰無仮説 $H_0$ を検定することを考えよう。このように、観測度数が理論上の確率分布に適合しているかを調べる検定をカイ二乗適合度検定という。
ここでは、検定統計量 $Q$ を次のように定義する。
$Q$ は、観測された出現回数 $X_k$ と、帰無仮説のもとでの期待値 $n\pi_k$ のズレを二乗して期待値で割ったものを、全てのドラゴンについて足し合わせたものである。単に差 $X_k-n\pi_k$ を足すと正負が打ち消し合ってしまうので二乗し、さらに期待値 $n\pi_k$ で割ることで、出現しやすいドラゴンと出現しにくいドラゴンのズレを同じ尺度で比べている。
各期待度数 $n\pi_k$ が十分大きいとき、帰無仮説が正しければ、$Q$ は近似的に自由度 $K-1$ のカイ二乗分布に従う。したがって、$Q$ が十分に大きいときに帰無仮説を棄却すればよい。
基本的には以上なのだが、最後に $Q$ が自由度 $K-1$ のカイ二乗分布に従う理由を、上を暗記しやすい程度に簡単に説明しよう。
まず、帰無仮説のもとでは、$X_k$ は二項分布 $\mathrm{Bin}(n, \pi_k)$ に従うことに注意しよう。これより、$n$ が大きいとき二項分布が正規分布で近似できることに注意すると、近似的に
\begin{align} \frac{X_k - n\pi_k}{\sqrt{n\pi_k(1-\pi_k)}} \ \approx \ \mathcal{N}(0, 1) \end{align}が成り立つ。これに注意すると、$k$ について上の二乗和を取ることにより、自由度 $K$ のカイ二乗分布に近似できると思いたくなる。
\begin{align} \sum_{k=1}^K \frac{(X_k - n\pi_k)^2}{n\pi_k(1-\pi_k)} \ \overset{?}{\approx} \ \chi^2_{K} \end{align}実際には、すべての $X_1, \cdots, X_K$ は独立ではなく、和が $n$ に固定されているため、修正が必要である。しかしこの修正は、実質的に分母の $1-\pi_k$ を取り除くことに相当し、その結果自由度が $K-1$ になる。(これは式変形で厳密に示すこともできるが、ここでは直感的な説明にとどめる。)
\begin{align} \sum_{k=1}^K \frac{(X_k - n\pi_k)^2}{n\pi_k} \ \approx \ \chi^2_{K-1} \end{align}次に述べるカイ二乗独立性検定でも、背景となる考え方は同じである。
カイ二乗独立性検定(補足)
次に、2つのカテゴリ変数が独立かどうかを調べる問題を考えよう。たとえば、以前捕まえたドラゴンについて(捕まえた記録をランダム標本とみなし)、ドラゴンの「種類 $i$」と「捕まえた草むら $j$」に関係があるかを調べたいとする。以下、ドラゴンの種類を $i=1,\cdots,I$、草むらを $j=1,\cdots,J$ とし、種類 $i$ のドラゴンを草むら $j$ で捕まえる真の確率を $p_{ij}$ と書く。
帰無仮説は
\begin{align} H_0:p_{ij}=p_{i\cdot}p_{\cdot j}\quad(\text{for all}\ i,j) \end{align}である。ただし、$p_{i\cdot}=\sum_{j=1}^Jp_{ij}$、$p_{\cdot j}=\sum_{i=1}^Ip_{ij}$ である。これはドラゴンの「種類」と「捕まえた草むら」が独立である、という仮説である。$n$ 匹のドラゴンを調べたとき、種類 $i$ のドラゴンを草むら $j$ で捕まえた回数を $X_{ij}$ と書く。行和、列和、全体の合計をそれぞれ
\begin{align} X_{i\cdot}=\sum_{j=1}^J X_{ij},\quad X_{\cdot j}=\sum_{i=1}^I X_{ij},\quad n=\sum_{i=1}^I\sum_{j=1}^J X_{ij} \end{align}と書く。もしドラゴンの種類と草むらが独立なら、「種類 $i$ である割合」と「草むら $j$ で捕まえた割合」を掛ければ、種類 $i$ かつ草むら $j$ で捕まえた割合になるはずである。したがって、独立性のもとでの期待度数は
で推定される。そこで、観測度数 $X_{ij}$ と期待度数 $E_{ij}$ のズレを、適合度検定と同じ形で足し合わせる。
これがカイ二乗独立性検定の検定統計量である。各期待度数 $E_{ij}$ が十分大きいとき、帰無仮説が正しければ、$Q$ は近似的に自由度 $(I-1)(J-1)$ のカイ二乗分布に従う。
したがって、$Q$ が十分に大きいとき、ドラゴンの種類と捕まえた草むらは独立ではないと判断して、帰無仮説を棄却する。
自由度が $(I-1)(J-1)$ になる理由はこうである。独立性のもとでは、行方向の確率 $p_{i\cdot}$ と列方向の確率 $p_{\cdot j}$ だけで全体の確率が決まる。行方向には和が $1$ になる制約があるので自由に決められるのは $I-1$ 個、列方向も同様に $J-1$ 個である。独立でない一般の分布では $IJ-1$ 個の自由度があるため、その差
\begin{align} (IJ-1)-\{(I-1)+(J-1)\} = (I-1)(J-1) \end{align}が、独立性からのズレを測る自由度になる。
適合度検定では理論上の確率 $\pi_k$ があらかじめ与えられていたが、独立性検定では行和と列和から、独立だった場合の期待度数をデータから作る点が異なる点に注意しよう。
8 統計的区間推定
考え方
信頼区間は、点推定値だけでは分からない推定の不確実性を、区間の幅として表す方法である。点推定では $\hat{\theta}$ という一つの値だけを出すが、標本を取り直せば $\hat{\theta}$ も変わる。そこで区間推定では、標本変動を考慮して、データから母数 $\theta$ の候補範囲を作る。
母数 $\theta$ に対して、データから作った区間 $[L(\boldsymbol X),U(\boldsymbol X)]$ が任意の $\theta$ について
を満たすとき、$[L(\boldsymbol X),U(\boldsymbol X)]$ を信頼係数 $1-\alpha$ の $\theta$ の信頼区間という。基本的には式の意味のとおりで、区間 $[L(\boldsymbol X),U(\boldsymbol X)]$ に対して、 $1-\alpha$ の確率で真の母数 $\theta$ が区間内に入ってくれているわけである。
ただし、ここで確率がかかっているのは母数 $\theta$ ではなく、データから作られる下端 $L(\boldsymbol X)$ と上端 $U(\boldsymbol X)$ である点には注意しておこう。したがって、データ $\boldsymbol{x}_{\mathrm{obs}}$ を観測した後に得られた特定の区間 $[L(\boldsymbol x_{\mathrm{obs}}),U(\boldsymbol x_{\mathrm{obs}})]$ について、「この区間に母数が入る確率が $1-\alpha$」と読むのは(頻度論的に)正確ではない。正しくは、同じ方法で信頼区間を $100$ 回作れば、そのうち $100(1-\alpha)$ 回程度が真の母数を含む、という主張である。
信頼区間の作り方
信頼区間は、検定の受容域を反転させて作ることができる。母数の候補値を $\theta_0$ とし、各 $\theta_0$ について検定問題
を有意水準 $\alpha$ で考える。ここで帰無仮説を単純仮説で置いていることに注意しよう。一方、対立仮説については、両側の信頼区間を作りたいなら両側検定を、片側信頼区間を作りたいなら片側検定を用いる。
この検定で棄却しない標本の集合を受容域 $A(\theta_0)$ と書く。つまり、観測データ $\boldsymbol{x}_{\mathrm{obs}}$ が $A(\theta_0)$ に入れば、$H_0:\theta=\theta_0$ を棄却しない。そこで、観測データ $\boldsymbol{x}_{\mathrm{obs}}$ を固定し、棄却されなかった $\theta_0$ をすべて集める。
この操作を観測値ごとに行う対応として見ると、信頼区間 $[L(\boldsymbol X),U(\boldsymbol X)]$ が得られる。受容域が
\begin{align} P_\theta(L(\boldsymbol X)\leq \theta_0 \leq U(\boldsymbol X))\geq 1-\alpha \end{align}を満たすように作られているので、その反転で得られる区間も信頼係数 $1-\alpha$ を持つ。
信頼区間の例
例として、$ X_1,\ldots,X_n \overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim}\mathcal{N}(\mu,\sigma^2) $ で、$\mu,\sigma^2$ が未知のとき、$\mu$ の $1-\alpha$ 信頼区間を求めよう。各候補値 $\mu_0$ について検定
を尤度比検定する。まず、母数空間全体での MLE は \begin{align} \hat \mu = \overline X, \quad \hat \sigma^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^n(X_i-\overline X)^2 \end{align} である。一方、$H_0:\mu=\mu_0$ のもとでの MLE は \begin{align} \hat \mu_0 = \mu_0, \quad \hat \sigma_0^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^n(X_i-\mu_0)^2 \end{align} である。したがって、尤度比は次のようになる。
ここで $ \hat \sigma_0^2 = \hat \sigma^2+(\overline X-\mu_0)^2 $ を代入し、不偏分散を $S^2=\dfrac{1}{n-1}\sum_{i=1}^n(X_i-\overline X)^2$ として
\begin{align} T = \frac{\overline X-\mu_0}{S/\sqrt n}\sim t_{n-1} \end{align}とおくと、尤度比は
と書き換えられる。$\lambda(\boldsymbol X;\mu_0)$ が小さいほど帰無仮説から遠ざかるので、尤度比検定は $T^2$ が大きいときに $H_0$ を棄却する検定になる。これより受容域は
である。ただし $t_{n-1}$ 分布の上側 $\alpha/2$ 点を $t_{\alpha/2,n-1}$ としている。これを $\boldsymbol X$ について反転させると、
となり、信頼区間が求まった。
点推定を出発点とした検定・信頼区間
教科書的には「信頼区間は点推定量ではなく、むしろ仮説検定と密接な関係にある」と説明されることが多い。しかし実際のところ、点推定量 $\hat{\theta}(\boldsymbol X)$ があれば、そこから信頼区間を直接作ることもできる。
理由は簡単で、 $\hat{\theta}(\boldsymbol X)$ そのものを検定統計量とすれば良いからである。つまり、$\hat{\theta}(\boldsymbol X)$ の分布を考え、その両端を切り落とすことによって信頼区間を構築するわけである。大抵の場合 $\hat{\theta}(\boldsymbol X)$ は不偏性または一致性を持っているので、真の母数 $\theta_0$ の周りに分布が集中することで、このことは正当化されるはずである。より数学的に書けば、標準化された何らかの分布を $F$ として、
\begin{align} \frac{\hat{\theta}(\boldsymbol X)-\theta_0}{\sigma_n} \sim F \quad \style{font-family:inherit;}{\text{ または } } \quad \frac{\hat{\theta}(\boldsymbol X)-\theta_0}{\sigma_n} \to_d F \label{eq:statistical-limit} \end{align}が成り立つはずである。このような場合、両側検定の受容域を
\begin{align} F_{\alpha/2} \leq \frac{\hat{\theta}(\boldsymbol X)-\theta_0}{\sigma_n} \leq F_{1-\alpha/2} \end{align}と設定し、この不等式を $\theta_0$ について解くことによって信頼区間を構築できる。
このように、点推定量から信頼区間を構築するアプローチは、この後説明するWald検定の基礎となっている。
標準誤差
Wald検定を理解するためのもう一つの準備として、標準誤差についても説明しておこう。やや寄り道となるが、これは実用的にも大変重要な概念である。
一言で言えば、標準誤差(Standard Error)とは、推定量の標準偏差のことである。つまり $\hat \theta = \hat{\theta}(\boldsymbol X)$ のとき、標準誤差は
と書かれる。しかし厄介なのは、上の標準誤差の定義自体が母数 $\theta$ に依存していることである。そのため、真の母数が未知の場合には、上の値は直接計算することができない。
そのため、実用上は観測値 $\boldsymbol x_{\mathrm{obs}}$ が与えられた場合には、上の式に推定量 $ \hat{\theta}(\boldsymbol x_{\mathrm{obs}}) $ 自身を代入して、標準誤差(の推定値)を求めることが多い。
これも標準誤差と呼ばれる。二つの「標準誤差」の定義 $(\ref{eq:se})$ と $(\ref{eq:se_hat})$ が出てきたが、これは文脈に応じて判断するしかない。「標準誤差」と聞いたときは、どちらの意味で使われているのかを判断するようにしよう。
Wald の信頼区間
さて、話を本題に戻そう。$(\ref{eq:statistical-limit})$ 式において、とくに分布 $F$ が標準正規分布の場合、これから述べるWald検定の出番である。このような場合は $\sigma_n = \sqrt{\mathrm{Var}(\hat{\theta})}$ として、両側検定の受容域を
\begin{align} -z_{\alpha/2} \leq \frac{\hat{\theta}(\boldsymbol X)-\theta_0}{\sigma_n} \leq z_{\alpha/2} \end{align}と設定することで、信頼区間を構築できる。
しかし上記は、実用的には一点問題がある。それは前節と同様に、$\sigma_n = \sqrt{\mathrm{Var}(\hat{\theta})}$ 自体が真の母数 $\theta_0$ に依存している場合である。それでも上の不等式が $\theta_0$ で解ける場合は大きな問題は要らない。しかし、もっと簡便で見通しの良い検定を考えたいことも多い。
それは、前節と同様に、$\sigma_n$ を標準誤差 $\widehat{\mathrm{SE}}(\hat{\theta}) $ で置き換えることである。このような $\sigma_n \to \widehat{\mathrm{SE}}(\hat{\theta})$ の置き換えに対しても、依然として
\begin{align} \frac{\hat{\theta}(\boldsymbol X)-\theta_0}{\widehat{\mathrm{SE}}(\hat{\theta})} \sim \mathcal{N}(0,1) \quad \style{font-family:inherit;}{\text{ または } } \quad \frac{\hat{\theta}(\boldsymbol X)-\theta_0}{\widehat{\mathrm{SE}}(\hat{\theta})} \to_d \mathcal{N}(0,1) \label{eq:wald-test} \end{align}が成り立つときの仮説検定は、とくにWald検定と呼ばれる。ちなみに、大抵の場合、 \begin{align} \frac{\sigma_n}{\widehat{\mathrm{SE}}(\hat{\theta})} \to_p 1 \end{align}
が成り立つので、スラツキーの定理より、$(\ref{eq:statistical-limit})$ が成り立てば $(\ref{eq:wald-test})$ も成り立つことが多い。
Wald検定の受容域の反転によって得られた信頼区間
はWald の信頼区間と呼ばれる。
統計検定では、「点推定値を求め、その両側信頼区間を求めよ」という形式の問題がよく出題される。このような場合は、検定の受容域をいちいち構成するよりも、点推定量のまわりでWald信頼区間を直接求めるほうが、見通しがよい場合が多い。
Bernoulli 分布の信頼区間
Waldの信頼区間が役にたつ例として、Bernoulli 分布の信頼区間を考えてみよう。例えば標本 $n$ のアンケート調査で、選択肢に対する「はい」の信頼区間を求めたい場合などである。これは実用上も大事な例である。
$X_1,\cdots,X_n \overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim}\mathrm{Ber}(p)$ とする。これを尤度比検定することもできるが、その結果は(少し計算してみれば分かる通り)数学的に込み入っており、実用的とは言えない。そこで、実用上は正規近似を使ったWald信頼区間を用いることが多い。
Wald信頼区間を作るためには、まずは点推定値を用意するのだった。今回用意する点推定値は
\begin{align} \hat p = \overline X \end{align}である。中心極限定理により、$n$ が十分大きいとき、$\hat p$ は正規分布に従う。
\begin{align} Z=\frac{\sqrt n(\hat p - p)}{\sqrt{p(1-p)}} \sim \mathcal{N}(0,1) \end{align}したがって、$Z$ を検定統計量とおいて、受容域を
とすればよい。これを $p$ について解いたものが信頼区間となる。これは $p$ についての二次不等式の問題なので、解の公式を用いることで厳密に解くこともできる。しかし、実用的には $(\ref{eq:bernoulli-interval})$ の中央の式の分母の $p(1-p)$ を、推定値 $\hat p(1-\hat p)$ で置き換えることで、近似した信頼区間を用いることが多い。こうしてWald信頼区間が構成される。
なお、以上の結果は正規近似の仮定に基づいていることに注意しよう。$n$ や $p$ が小さい場合、この近似は適切でない可能性がある。求める精度にもよるが、正規近似が適用できる一般的な目安は、2つの条件
\begin{align} n\hat p \geq 5 \sim 10,\quad n(1-\hat p) \geq 5 \sim 10 \end{align}をともに満たすことである。一方で、上の条件が1つだけ満たされる場合は、$n$ が大きいが $p$ (または $1-p$)が小さい場合であり、ポアソン近似が使える可能性がある。上の条件が一つも満たされない場合は、二項分布のままで計算するべきである。
復元抽出と非復元抽出(補足)
最後に、「復元抽出」「非復元抽出」の違いにも簡単に言及しておこう。前節の議論は復元抽出(つまり、アンケートを取るたびに母集団に戻す)を仮定している。一方で、実際に行われるアンケート調査は母集団の大きさ $N$ が有限であり、かつ非復元抽出(つまり、同じ人に何度も聞かない)であることが多い。このような場合、(単純無作為抽出のもとで)「はい」と回答した人数は、厳密には超幾何分布で表される。
ただし、$n,p$ が一定で $N \to \infty$ のときに、超幾何分布は二項分布に近似できることが数学的に示せる。これは直感的には、母集団の大きさ $N$ が大きくなることで、非復元抽出でも実質的に復元抽出とみなせるためである。
要するに、母集団の大きさ $N$ が十分大きいときは、非復元抽出であってもこれまでの議論を適用して構わない。ただし勘違いしてはならないのは、これらの違いの本質は「非復元抽出」「復元抽出」の違いであり、 $N$ の大きさの違いではない、ということである。というのも、母集団の大きさ $N$ が有限であっても、復元抽出であれば二項分布に従うからである。
予測区間(補足)
信頼区間と似た概念の一つとして予測区間があるが、$2$ つは全く異なる概念であることに注意しよう。ここでは、正規分布を例にとって簡単に予測区間の説明を行う。
$X_1, \cdots, X_n \overset{\mathrm{i.i.d.}}{\sim} \mathcal{N}(\mu, \sigma^2)$ とする。ただし $\mu, \sigma^2$ ともに未知とする。ここで $\mu$ の信頼区間が
\begin{align} \left[ \overline X - t_{\alpha/2,n-1}\frac{\hat{\sigma}_V}{\sqrt n}, \overline X + t_{\alpha/2,n-1}\frac{\hat{\sigma}_V}{\sqrt n} \right] \end{align}であることは、すでに説明した。
ここで、次の観測値 $X_{n+1}$ の $1-\alpha$ 予測区間を求めたいとする。まず、正規分布の加法性より
\begin{align} X_{n+1}-\overline X \sim \mathcal{N}\left(0, \sigma^2 + \frac{\sigma^2}{n}\right) \end{align}これより
\begin{align} \frac{X_{n+1}-\overline X}{\sigma \sqrt{1 + \frac{1}{n}}} \sim \mathcal{N}\left(0, 1\right) \end{align}である。次に、これまでと同様、$\sigma$ を不偏推定量 $\hat{\sigma}_V$ で置き換えを行う。$X_{n+1}, \overline X$ ともに $\hat{\sigma}_V$ と独立であることから、$X_{n+1}-\overline X$ も $\hat{\sigma}_V$ と独立であることに注意しよう。これより、$t$ 分布を用いて
\begin{align} \frac{X_{n+1}-\overline X}{\hat{\sigma}_V \sqrt{1 + \frac{1}{n}}} = \frac{X_{n+1}-\overline X}{\sigma \sqrt{1 + \frac{1}{n}}} \cdot \frac{1}{\sqrt{\frac{1}{n-1}\chi_{n-1}^2}} \sim t_{n-1} \end{align}である。したがって、$X_{n+1}$ の予測区間は
となる。